2013年11月10日日曜日

手を抜いたら


「手を抜いたら、手を抜いた未来しか待っていない」

2012年11月2日、私は音楽の聖地・日本武道館のステージに立っていました。音楽活動を始めて6年、無名でヒット曲もない26歳の私が、なぜ武道館で単独ライブを行うことができたのか。それはひとえに、数え切れないほどの方々の恩沢があったからに他なりません。
物心ついた時から「歌手になりたい」と憧れを抱いていました。けれど、私は地味で目立たないタイプの人間。周りには恥ずかしくて言い出せず、次第に「どうせ歌手になんてなれるわけがない」という気持ちが芽生えるようになりました。
ところが、大学2年となり、進路について考えるようになった時、自分の気持ちを誤魔化せなくなったのでしょう。このまま何もしなかったら後悔する。だったら、とにかくいま動こう。そう決意し、音楽活動を本格的にスタートさせました。カラオケで録音したデモテープを片っ端からレコード会社に送りましたが、当然の如く音沙汰はありません。そんな生活が延々と続き、1年半。
ある日、当時通っていたボーカルスクールのオーディションで運よく担当者の目に留まり、CDデビューをすることになったのです。とはいっても、無名の歌手がCDを出しても誰も買ってくれません。
そこで私は路上ライブを始めることになりました。大学3年の時、初めてマイク片手に渋谷の路地に立ちました。誰もが無関心そうに目の前を通り過ぎていき、第一声がなかなか出せない。いざ歌い始めたものの、冷たい視線が心に苦しく、いますぐ逃げ出したい……。
そう思いながら2曲を歌い切り、片づけ始めたその時、スーツ姿の男性が近づいてきて、こう言ったのです。「いい歌ですね」
私は嬉しさのあまり、込み上げてくる涙を抑えることができませんでした。その方は社交辞令で言ってくださったのかもしれません。でも、このひと言に私は救われ、音楽活動を続けていこうと腹を決めました。
それから三年後のことです。「武道館を目指してみない?」所属事務所のマネジャーのこの言葉がきっかけで、私は「武道館サポーターズファミリー1万5千人挑戦」という試みをスタートさせました。これは1年間路上ライブを行い、サポーターを1万5千人集めれば、武道館単独ライブを開催できるというもの。
1万5千という想像し難い数字を目の前に一瞬怯みましたが、とにかく行動あるのみと、毎日のように街へ出かけていきました。誰にも足を止めてもらえなかったり、「武道館なんて無理」「あなたの歌からは何も伝わってこない」と言われたこともあります。
そんな時、頭の中を駆け巡るのは「休みたい」という思いでした。しかし、私は雨の日も、雪の日も、嵐の日も、猛暑の日も歌い続けました。
サボってしまうと、出会いのチャンスを逃すことになるからです。
                   宮崎奈穂子(歌手)致知メルマガより
 自分自身に言い聞かせなくてはいけませんね。